だが、その〔想い〕は遥か遠い望みとなった。
憶えているのは、飛べなくなった真黒い空と、その元凶である〈災厄〉たち。見知った人々が餌食となって動かなくなるさまを目の当たりにした。
空を飛ぶことが生き甲斐だった。
人々の〔想い〕を載せて飛ぶことが。
飛べなくなった空を、〔想い〕を塞ぐ黒い空からもう一度取り戻したくて〈災厄〉と相対した。
『何よ、単なる〈人形〉のくせに!』
『それとも、貴方が僕たちと遊んでくださるんですかぁ?』
『何言ってっかわかんねーけどよ……これ以上おいたするとなあ、お兄さん黙ってねえぞコラ』
牽制するだけだった銃口の矛先を〈災厄〉討伐のために向け直す。
『あの蕾のついている枝を狙ってくれ!』
向け直したはずの矛先が、盟友の蕾に向けられている。
夜明かりが指し示す先は、振れる蕾。
トリガーにかけた指が硬直する。
矛先を変えたはずの銃口は、今、誰に向けられている?
『駄目だ……撃てねえ』
銃を下ろした刹那、眩く輝くのは天の光。
『ごめんね』
盟友の胴幹に、朱くて熱い炎が灯る。
『……何してんだ、若』
『何って、フラジールの〔遺志〕を継ぎに』
陽の光が親友の身体を燃して、灰が空に舞い上がる。
『〈光〉! どうかわたくしを、置いていかないでくださいませ!』
煌めく天界の向こう側へ、雲の体躯を散り散りに崩す同僚が昇っていく。
愛するものが本当の意味で〈星〉になる……
『これ以上昇んな! イヴ!』
高く昇りすぎた同僚のために犠牲にした翼。
操縦者を失った風の船は墜落し、翼をもがれた機体が空中分解する。
空を取り戻しても、飛ぶための手段が失われるなら……
操縦不能で墜落した寒冷地は、今でも真白く身体を閉ざす。