☆ Asteryskar ☆

【機械惑星編】

『衛士復活』
-目醒める〔意識〕-

『主さまー! ヴィッダーはやりましたよー!』

 空から音が降ってくる。
 遠く、別れを告げたはずの音。
 その響きは、かつて一方的に言い懲らしてしまった同僚の、いつもは明るげにしおらしく、それでいて勇ましい声色に似ていた。
 思わず、同僚の名を口にする。いくつもの音が戦慄いており、その中に名を呼ばれたような音も混ざりだす。耳聡いとは程遠く、どうも上手く聞き取れない。

 だが、目の前の綿雲とは視線が合った。
 同僚とよく似た水塊の(かたち)
 しかし、再度、同僚の名を呼ぶと、否定の音が雨粒となる。

『主さまではありません、ヴィッダーでございますよー!』

 同僚を主と呼ぶその名を聞き受け、視界の代わりに鮮やかな記憶が蘇る。

 解れの多いこの身を案じる同僚が就かせてくれた、十二体居る飛沫のひとり。寒冷離島の〔ゆめの砂浜〕に置き去りにした水塊の子ども。淋しげな水面で役目を解かれた別れの(みぎわ)、凍り付かないよう、絶えず生まれていたせせらぎだけの寂寥感を思い出す。
 まだ口も利けない裁縫上手の水塊だった同僚の飛沫が、今では同僚のように言葉をあやつるまで〔成長〕している……
 目の前の綿雲に、思い付くままの感嘆を為すのも束の間、焦点はうまく定まらず、身体は思うように動かない。身を起こそうと力を込めたつもりが、視界ががくがくと大きく揺れて惑う。

『ぁぁぁぁぁぁぁぁ飛行士にーさん!』

 先ほどよりもはっきりと、聞きなれた声が届き始める。
 少年よりも大人びる声は、集落の人々の着衣を仕立てる若き御針子。

『衛士さ〜ん、無事に息を吹き返してくださいましたね〜』

 間延びした柔らかい声は、集落の子どもたちの世話をする嫋やかな掃除娘。
 二人の顔を思いついたところでまぶたが重くなり、再び視界が暗闇に閉じる。

 名前を呼ぶ音が。
 空から降っていた音が遠去かる。

 意識がふつりと揚力を失い、次第に高度を落としていく。
 天籟(てんらい)の透き通るひと鳴りに、意識の無い風景が羽搏(はばた)く。
 あたまのてっぺんより向こう側から、細波と水の凍りつく音がする。

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