そんな貴方が、フローランスとの居た堪れない諍いを起こした後に……
『俺のことは、うまく言っといてくれよ』
そう、わたくしだけには微笑んで。
もはや〔蜜酒〕の気配で貴方へ近付けなくなったわたくしに。
まさか、わたくしだけにその御言葉を御残しになっていたなんて、思ってもみなくて。
わたくしは、ネクターを〈栄養素〉としてフラジールに捧げようとしたのですよ。それを、迫真とした眼差しと渾身で御咎めになったではありませんか。
『こんな姿、子どもらには、見せらんねえからさ……』
貴方は、フローランスとの諍いの後でも。
御自身よりも集落の皆様を。
なにより、フラジールの愛した子どもたちの『希望』を潰さないために。
『あいつらにも……上手く、さ……』
ずっと追いかけていた〈災厄〉の双子たちにまで。
『イヴ……』
これまで貴方に就かせていたヴィッダーの御役目までお解きになって。
おひとりで。
あの場所へ。
貴方がかつて、動かなくなったあの場所へ。
あの場所は……貴方がもっとも忌諱していた場所ですのに……
わたくしは、何故、もっと早く駆け付けなかったのでしょう。
髪の先からつま先まで〔蜜酒〕に満たされた貴方を……
だから、駆け付けた頃にはすでに冷たく、動かなくなっていた貴方の胸許から、貴方の〈コア〉を抜き取るので精一杯で。
『今まで、ありがとな……』
わたくしは……再び動かなくなった貴方を、今度は看取ることも叶いませんでした。
-—-—-—-
わたくし、切実に悩み抜いたのです。
貴方の真白く、細やかな〈芯〉を。
貴方の原動力である〈コア〉を、ソラの〔光〕無くとも、わたくしが〈浄化〉を続けずとも再生の叶うかどうか。
これまでと変わらぬ貴方で在り続けられるかどうか。
他星へと御出発前の不翔鳥陛下がおっしゃってくださいました、貴方の〈芯〉には手を加えるなと。
素のままの貴方で在れと。
真白いまま、勇敢な貴方で在れと。
わたくしの想いで刺しつけた貴方の〈コア〉。
真白い〈芯〉に手を加えずに、素のままで再生の叶う手筈を。
そもそも、わたくしのほうに覚悟が足りなかったのです。
わたくしの『最高傑作』であります貴方が、あれほどまでに落魄されて、わたくしはわたくしで〔蜜酒〕のために近付けないなんて。
ネクターのことで貴方に気押されて、貴方と距離を置いて……
精彩を欠く貴方から銃を取り上げたままで、わたくしが貴方を忌諱してしまうなど……
ほんの僅かでも闕望するなど、あってはならないことでした。
わたくしは、覚悟を決めて進言致します。
貴方に敬意を込めて、捧げます。
わたくしの〈コア〉を。
フラジールの〔右芽〕を。
貴方に。