☆ Asteryskar ☆

【機械惑星編】

-イヴのひとりごと-

 そんな貴方が、フローランスとの居た堪れない諍いを起こした後に……

『俺のことは、うまく言っといてくれよ』

 そう、わたくしだけには微笑んで。

 もはや〔蜜酒〕の気配で貴方へ近付けなくなったわたくしに。

 まさか、わたくしだけにその御言葉を御残しになっていたなんて、思ってもみなくて。

 わたくしは、ネクターを〈栄養素〉としてフラジールに捧げようとしたのですよ。それを、迫真とした眼差しと渾身で御咎めになったではありませんか。

『こんな姿、子どもらには、見せらんねえからさ……』

 貴方は、フローランスとの諍いの後でも。

 御自身よりも集落の皆様を。

 なにより、フラジールの愛した子どもたちの『希望』を潰さないために。

『あいつらにも……上手く、さ……』

 ずっと追いかけていた〈災厄〉の双子たちにまで。

『イヴ……』

 これまで貴方に就かせていたヴィッダーの御役目までお解きになって。

 おひとりで。

 あの場所へ。

 貴方がかつて、動かなくなったあの場所へ。

 あの場所は……貴方がもっとも忌諱していた場所ですのに……

 わたくしは、何故、もっと早く駆け付けなかったのでしょう。

 髪の先からつま先まで〔蜜酒〕に満たされた貴方を……

 だから、駆け付けた頃にはすでに冷たく、動かなくなっていた貴方の胸許から、貴方の〈コア〉を抜き取るので精一杯で。

『今まで、ありがとな……』

 わたくしは……再び動かなくなった貴方を、今度は看取ることも叶いませんでした。

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 わたくし、切実に悩み抜いたのです。

 貴方の真白く、細やかな〈芯〉を。

 貴方の原動力である〈コア〉を、ソラの〔光〕無くとも、わたくしが〈浄化〉を続けずとも再生の叶うかどうか。

 これまでと変わらぬ貴方で在り続けられるかどうか。

 他星へと御出発前の不翔鳥陛下がおっしゃってくださいました、貴方の〈芯〉には手を加えるなと。

 素のままの貴方で在れと。

 真白いまま、勇敢な貴方で在れと。

 わたくしの想いで刺しつけた貴方の〈コア〉。

 真白い〈芯〉に手を加えずに、素のままで再生の叶う手筈を。

 そもそも、わたくしのほうに覚悟が足りなかったのです。

 わたくしの『最高傑作』であります貴方が、あれほどまでに落魄されて、わたくしはわたくしで〔蜜酒〕のために近付けないなんて。

 ネクターのことで貴方に気押されて、貴方と距離を置いて……

 精彩を欠く貴方から銃を取り上げたままで、わたくしが貴方を忌諱してしまうなど……

 ほんの僅かでも闕望(けつぼう)するなど、あってはならないことでした。

 わたくしは、覚悟を決めて進言致します。

 貴方に敬意を込めて、捧げます。

 わたくしの〈コア〉を。

 フラジールの〔右芽〕を。

 貴方に。

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