『なぁ、イヴ』
貴方の最期の微笑みが、今でもわたくしの水面から離れませんのは、わたくし、きっと今でも貴方との今生の別れを引きずっているのでしょう……フラジールのときのように。
いえ、フラジールのときも、貴方と同じ有り様で。
わたくしは、また、置いていかれたのだと。
天に近い山頂で霧散するこの雲の体躯に紫電を込めて、その事実を受け容れなくてはならないのだと。
然し乍ら、わたくしにはどうにも止められなかったのでございます。貴方が、それほどまでにフラジールを悼んでくださっていたこと。そのために、フラジールを燃したソラと仲違いしたままとなってしまったことを。
あの『復活祭』にて、わたくしたちの輩——フラジールはその息根を止め、この〈惑星フラジール〉からその身を御隠しになりました。フラジールはもはや、ソラの〈光〉では命を繋ぐことすら叶わない〔終焉の軌道〕をお辿りになっていたとのことですから、遅かれ早かれ、この永遠の別れが訪れる雲行きだったのでございます。
フラジールは、貴方がお相手いただいていた〈災厄〉——フューリーとピューパミアの〈器〉について、長い星の巡りの間もひどくお悩み致しておりました。彼等は、わたくしたち『〈天体の体躯〉を授かる者たち』の顕現よりも太古より存在すると申し立て、この星の変革さえなければ平穏でいられたと怒号しておりました。
フラジールはこの星に陽の光を。そして、生命の豊穣を望みました。氷に包まれ、冷たく、暗く、荒廃した大地よりも、隣星のような生命に溢れた惑星で有りたかったのです。そのためにわたくしを呼び醒まし、天の彼方に御坐す〈旧母星〉へ助けを求め、惑星の変革を期待し、斯くてこの星はフラジールの外殻のような緑ある星へと生まれ変わりました。
然し乍ら、それが〈災厄〉との確執の証、ひいては、星の巡りごとに訪れる〈晩秋の盈月〉の日に、現〈惑星フラジール〉の存亡をかけた鬩ぎ合いになるとは、フラジールもわたくしも、露も思わなかったのです。それ故に、貴方の御力によって〈災厄〉を何度も追い立てる劇争を、長い星の巡りの間に敷かなくてはなりませんでした。〈災厄〉は〈災厄〉で、フラジールがお目覚めになる前の、〈旧母星〉が星の変革を行う前の惑星へお戻ししたかっただけですのに。
ですが、それはフラジールの望みではありません。フラジールの望みは〈惑星フラジール〉の望みそのものでありますから。
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