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20250806メモより抜粋
即興執筆(推敲済み)

あれから目醒めて

○2025-08-06 23:26

 一日目は食べ物を噛み切る力が無く、飲み込みやすい飲み物だけで過ごした。二代目の生産する〈果物〉を搾って仕上げた飲料は、甘酸っぱくもさっぱりと飲みやすかった。
 二日目は身体を起こせたが、歩けるほどの力は無く、水塊の手許を取ってようやく立ち上がれるものの、自立する余裕は残らなかった。
 三日目でようやく食べ物が喉を通り、それでもよく煮込んで喉を通りやすくしたものをネクターが作ってくれた。
 どの日も食べ物を口にして、そのあとは気を失うだけの日々が続いた。すっかり憔悴しきっていたシドが自力で寝所から立ち上がれたのは、五日目の朝。

「……あぁ、ヘビーか。悪りい、ずっと連絡できねえで」

 通信端末の向こう側で、労ってくれる仲間の声。着信履歴が幾つも続いていたにも関わらず、これまで折り返す都合がつかなかったことを詫び、今度会うときに詫びを寄越すと言って端末を閉じる。
 飾り棚に端末を置く勢いで、寝所へ仰向けに倒れ込む。
 仰向けになり、気怠い片腕で目隠しをして視界を塞ぐ。

「流石に無理し過ぎた……」

 〈コア〉のダメージは既に恢復して、痛みを感じることはなかった。疲れだけが後を引いて、今はただただ食べ物を摂取しては睡眠を繰り返している。

「……城ん中だけでも歩くか」

 徐ろに起き上がり、靴紐を縛り直して扉へ向かう。数歩に一度は目の奥が背後に引かれる思いをするが、壁に手をついて歩く分には行動に支障はない。
 ひとまず、同僚を探すことにした。まともに動けるようになるまでは城内にいるとの話は聞いている。

「また、あそこかな」

 シドは力無く独り言つと、屋外へと続く通路へ進路を変える。

-—-—-—-

 城の屋外に造られた『展望庭園』。  見上げれば青い空、目下には国中の景色が見渡せる見晴らしの良い立地。  そこには、シドの予想通り、同僚のカミナリ雲——イヴが今日も飛沫たちの成果を見守っていた。  シドの気配に気が付いたのか、円な左眼がシドへ振り向く。 「シド! こんなところまでいらして……どうか横になっていてくださいませ」 「いや、ずっと寝転がってたらさ、からだ鈍っちまうよ……今日はあれだ、『リハビリ』ってやつ……」  言葉を言い切るが先か、シドは青褪めた顔でその場にへたり込んだ。周りには手を突く場所もなく、脚に力が入らない。 「ほら……無理をなさるからです」 「はは……マジで無理し過ぎちまったな」 「〈コア〉にエネルギーが回らなくなっている上に、あんなことをなさるからですっ」 「判ってる。判ってるって、カミナリ落とすなよ」 「これはまだ発達途上でございます」 「はは、そっか」 「全く……貴方ってひとは」  イヴの紫電光を目の端にして、へたり込んだ体を反り返しそのまま後ろへ倒れ込む。  同僚が驚きの声を上げる。 「シド、大丈夫ですかっ」 「問題ねえさ。ただ、寝転びたくてさ」  シドの視界には、同僚が覗き込む姿と、青い空。  思い出す、天と地を分つ色。 「……いい空だ。思い出す」 「シド」 「今は、俺の記憶の中にしかない景色……」  目を閉じると、そのまま意識が引き込まれて朦朧とし始めた。イヴが気を急いて綿雲で全身を持ち上げてくれる。  だが。 「頼むイヴ……もう少しだけ……この空の下に居させてくれ……」  渾身で目を開け、同僚へと頼み込む。  イヴはまだ、飛沫たちへ天候管理の指導をしている最中。 「頼む……」 「わたくしの声がうるさいかもしれませんよ?」 「はは……構わねえさ……」 「……かしこまりました」  間もなく、飛沫たちへの小言が延々と続き始めた。  シドはその変わらない日常に安堵して、再び意識の高度を落としていった。

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次話へ続く