☆ Asteryskar ☆

☆Asteryskar Tweetlog

20180820、追記分20190505ツイートより抜粋
〈大極夜〉回想1

○2018-08-20 5:59

一度星が滅んだ時、シドの傍にはイヴがいたんだ。
だから、イヴは彼が絶命するところを見ている。
その最期も。
その一言も。

彼のことをリメイクしたのもイヴ自身だ。

目次に戻る 

○2019-05-05 12:28

朝が呼ばれなくなってから四十日を過ぎる頃。

飛行船が墜落するのを確認して、イヴは現場へ急行する。

場所は寒冷の地。
元々陽の射さないここは、より凍えて吹雪き、何もかもが凍りつく。

シドを見つけたイヴは、シドを助けるためにほんの少し身動きを取らぬだけで、雲の体躯が凍りつき、空に飛び立てなくなってしまった。

目次に戻る 

○2019-05-05 12:36

雲『引)シド…しっかりして…くださいませ…』
雲『あぁ…あと…もう少し…』
雲『……』
飛行『雪抜)』
雲『引出)…あぁっ!』
雲『息切)…ようやく』
雲『震)うぅ…凍えます…』
雲『…!』
雲『あぁ…これは…いけません…』
雲『…か、からだが…動きませんね』
雲『……』
雲『ふ、不覚…』

目次に戻る 

○2018-08-20 10:15

雲『シド…』
飛行『……』
雲『…もう』
飛行『莫迦言うな…まだ…意識はある…』
雲『!』
飛行『だが…もう目は見えねえな…悪りい、お前の顔…もう見えねえ』
雲『あぁ…』
飛行『そこに…いるんだろ…凍ったカラダ…溶けそうに…ねえか』
雲『陽が射さない限りは…』
飛行『あー…参ったよな』

目次に戻る 

○2018-08-20 10:17

飛行『爺さんが…朝を呼べなく…なったからか…』
雲『わたくしが最後に様子を見に行った時もまだ昏睡されたままで…月影もずっと呼びかけておられました』
飛行『そっか…爺さん…ちっと…間違っちまったな…』
雲『……』
飛行『まぁ…一番…大事なひとを…侮辱されたら…怒るわな…』
雲『……』

目次に戻る 

○2018-08-20 10:23

飛行『陽が昇らない…ってよ…こんなに…寒いもんなんだな…』
雲『そう、ですね…』
飛行『……』
雲『……』
飛行『…イヴ』
雲『はい』
飛行『お前さ…フラジールと…ただの…親友じゃねえ…よな』
雲『…はい』
飛行『はは…あっさり肯定するなー…なんか…ショックだ』
雲『……』
飛行『……』

目次に戻る 

○2018-08-20 10:27

飛行『今更…余計な詮索は…しないけどよ』
雲『……』
飛行『あいつとたまに…俺や…国の奴らがわからねえ…ようなこと…話してたり…するだろ』
雲『…大事なお役目なのです』
飛行『それはさ…不翔鳥様の命より…大事なもんなんだろ』
雲『…はい』
飛行『だから何で…そんなあっさりさ…まぁ…いいや…』

目次に戻る 

○2019-05-05 15:42

陽の射さなくなった星の住人は、数名を除いて、みな動かなくなった。
陽光の恩恵がなければ、この星の住人は生きていられない。

勿論彼も、例外ではない。

呼吸が浅い。
もう、目は見えないと言った。
視線の定まらない彼の瞳が虚空を覗き、同僚へ呟く。

『もう…………なんだ…よな…』

目次に戻る 

○2018-08-20 10:51

飛行『なぁ…』
雲『はい、何でしょう…』
飛行『俺の意識…が消える…までさ…話しようぜ…反応…なくても…呼び掛けてくれよ…』
雲『シド…』
飛行『何…話すかな…お前さ…覚えてるか…俺たちが…不翔鳥様の…元で………た時の…』
雲『…忘れた事は、ございません』
飛行『はは…そうだな…』

目次に戻る 

○2019-05-05 16:07

互いに吐く息の凍る音がする。

それでも、お喋り好きな稲妻の口は動きを止めず、彼もまた、相槌を辞めなかった。
様々なこと、思い出話、愛する君主の話、古い知音である大樹の話、お互いの空に対する想いや価値観の差異を面白がったり、仕事や趣味の話、大好きな友人たちの話。

同僚である彼の話…

目次に戻る 

○2019-05-05 16:15

どれくらい長い時間、話が零れたのだろう。
いつしか吹雪いていた風は止み、闇空を緩やかに過ぎる暗雲の隙間から、星の光がちらちらと輝く。

いつのまにか、息の凍る音がひとつだけになっていた。

はたと口を噤むイヴは、つぶらなひとみを彼に注ぐ。

目次に戻る 

○2018-08-20 22:49

雲『……』
雲『…シド?』
飛行『…何』
雲『安堵)まだ…』
飛行『話…聴………疲れちまって…』
雲『……』
飛行『さすが…話…尽きねえ…な…お前が…話好きで…良かった…』
雲『シド…わたくし…わたくしは…』
飛行『あのさ…』
雲『はい』
飛行『…もう一度…聞いて…いいか…?』

目次に戻る 

○2018-08-20 23:12

『お前に…とって…フラ……ル…は…特別…やつ……んだな…』
『…はい』
『やっぱ…悔しいな…』
『……』
『お前に…とってさ…俺…は…背中…預けられる…ようなやつ…だった…かな…』
『勿論でございます』
『俺は…割と…寄っ掛かって…たんだぜ…』
『存じております』
『……』

『…シド?』

目次に戻る 

○2019-05-05 16:43

『イヴ…』
『……』
『お前と…不翔鳥様…の元に…就けて…良かったよ…』
『……』
『楽しかった…楽しくてさ…あとさ…俺も…お前のこと…あいつと同じ…くらい…すげえ大事に…思っ…て…たんだ…ぜ…』
『…存じております』
『…そっか』
『……』
『…あのさ』
『……」
『同僚…として…お前は…俺の…』
『……』

目次に戻る 

○2019-05-05 16:57

そこで、彼の口元は震えを止めた。
瞳が虚空を見つめて、彷徨わなくなった。

イヴは、何度か彼の名を呼びかけるが、返事は無い。

長いこと聞き慣れた、あの爽快な青空のような返事は無かった。

イヴの記憶の中でだけ、返事がこだまする。
あの声は、もう返ってこない。

目次に戻る 

○2018-08-21 4:28

『……』
『……』
『…シド、わたくし…は…貴方が…』
『……』
『貴方がいつの日も、わたくしのことを思ってくださっていたこと、分かっておりましたよ…ですがわたくしは、貴方にどう思われようが、何もお返しすることはできないのです…』

目次に戻る 

○2018-08-21 11:17

『……』
『シド…もし…もし、また…この身が動けるようになった暁には…もう一度…そのお身体をお造り直して差し上げますね…』

イヴの口から漏れる息が凍る音がする。
白く、大気に混ざって流れていく。

『!!』

その時、動かないはずの彼の瞳が雲を捉えて、二人の視線が交わった。

目次に戻る 

○2018-08-21 11:22

『え…まだ、意識が…』
『……』

イヴは息を呑み彼の瞳を覗く。
見えていないはずなのに、彼の視線は真っ直ぐ稲妻の左目を捉えていた。

『そう…なのです…シド…わたくしは…貴方や、皆さまの事を…お造りしたのです…』

イヴはこうべを垂れて、まるで懺悔のように、ぽつぽつと話を始める。

目次に戻る 

○2018-08-21 11:29

『貴方の前でこんな事…話すつもりは…聴こえて…しまいましたよね…』

イヴの目に涙が溜まる。

『これは…皆様には内緒のことでございます』
『……』
『わたくしは、この星に住む皆様のことを、ある方の造り方を真似て、そのお身体をお造りしたのです。わたくしは…そう、シド、貴方の事も…』

目次に戻る 

○2019-05-06 10:04

『今まで黙っていて、申し訳ございません…でも、言えなかった…』

涙が、凍る。

『こんな…貴方がたが、わたくしの造った造りものだなんて…そんな真実をお伝えするのは…あまりにも…酷だと思ったのです…きっと…許されません…貴方にも…』
『……』
『わたくしは…わたくしは…』

目次に戻る 

○2018-08-21 13:50

『……!!』

交わる視線がブレて、それきり。
彼の瞳から光が消えた。

『……』
『…シド?』
『……』
『…………』
『……あぁ』
『こんな…こんな…わたくしは…あぁ…』
『……』

目次に戻る 

○2019-05-06 10:21

凍り付いた雲の体躯から染み出すわずかな涙水が、たちまち凍り付いて氷柱をつくり始める。

それは透明な棘のようで。
涙は氷柱へと姿を変えて、イヴの雲から延び続けた。

目次に戻る 

○2019-05-06 10:24

それから。
どれほどの時間が経ったろうか。

顔の向きさえ動かせなくなったイヴは、命の光が消えた〈器〉を眺めながら、ふと、森を守る大樹の安否を気遣った。

『貴方は…まだ、この寒さに持ちこたえておりますでしょうか…』

凍り付いて動けない体躯がもどかしく、イヴは、きゅっと左目を閉じる。

目次に戻る 

○2019-05-06 10:28

この体躯さえ動けたなら。

この雲の体躯を動かすには、凍り付いた水分を溶かさなければならない。

稲妻は、あの暖かな空の光を思い出す。

『……』
『月影、どうか、天光を…頼みますよ…』

閉じたひとつ目も凍り付いて開かなくなった。
世界は闇に閉ざされた。

目次に戻る